大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(ラ)69号 決定

相手方は別紙目録記載の建物(以下本件建物という)の敷地の所有権に基いて、本件建物の所有者である抗告人に対する建物取去並びに土地明渡請求権の執行保全のため、抗告人を債務者として東京地方裁判所に仮処分の申請をなし、同裁判所は同庁昭和三十二年(ヨ)第二、六九二号仮処分事件として、昭和三十二年七月一日「債務者(抗告人)の本件建物及びその敷地に対する占有を解いて、債権者(相手方)の委任した東京地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。執行吏はその現状を変更しないことを条件として、債務者にその使用を許さなければならない。但しこの場合においては、執行吏はその保管にかかることを公示するため適当の方法を採るべく、債務者はこの占有を他人に移転し、または占有名義を変更してはならない。債務者はその所有名義の本件建物について譲渡質権抵当権賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない。」旨の仮処分決定をなした。東京地方裁判所所属執行吏寺田浩は相手方の委任に基いて同年七月二日右仮処分の執行をなし、抗告人に対し現状を変更しないことを条件として本件建物の使用を許した。その後同年九月二十五日同執行吏は相手方の申請により点検をなしたところ、本件建物の内部東側約四坪五合の部分はベニヤ板をもつて住居に改造せられ、同所には申立外宗像重夫がその使用人六名とともに居住し且つ本件建物内全部に宗像所有の建築資材、什器等が存在し、同人がこれに占拠していることを認めたので、同執行吏は四十八時間以内に本件建物を原状に復して退去すべきことを命じ、もしこれに応じないときは宗像重夫等を強制退去さすべき旨を告知した。次いで同月二十八日同執行吏は相手方の申請により点検をなしたところ、宗像及びその使用人等が退去し、抗告人及び宗像の各占有と認められる家財、什器、建築資材等が存在するほか、本件建物の状態は前回の点検の際と同じであつた。そこで、同執行吏は本件建物内の右物件全部を屋外に搬出し、本件建物に対する抗告人及び右宗像の占有を解いて、出入口に「本件建物は当職において現実保管中なるにより何人も当職の許可なくしてこれを占拠すべからず」との趣旨を記載した木札の公示書を建て、本件建物を同執行吏の保管に移す執行処分をなした。

上記趣旨のいわゆる占有移転禁止の仮処分が執行された場合に、執行吏は債務者が現状を変更したことを理由として当然に債務者の使用を禁止し、その退去を強制することができるかどうかについては学説が分かれ、実務上の取扱も一致していないところである。右のように仮処分命令が目的不動産の占有を一応執行吏の占有に移し、債務者に対しその現状を変更しないことを条件として使用を許した趣旨は、債務者に使用を許すときは債務者が現状を変更し仮処分の目的を達成するのに困難を生ずるおそれがあるから、右のような条件を付したもので、執行吏保管のままで使用を許すが、その反面において債務者に対し現状を変更してはならない旨の不作為義務を課したものと解するのを相当とする。従つて、そのためには執行吏は目的不動産の管理の方法として適時目的物を点検することができるし、仮処分の当初の執行又はその後の点検に際しては債務者に対し、現状を変更しないように諭告し、現状を変更するおそれがあると認めたときは、事前にこれを抑止し、またすでに現状が変更されたときは、新たに作り出された状態を除却してこれを旧に復し、さらに債務者に対し将来に亘つて違反のないよう警告する等のことはこれをなすことができる。しかしながら、この場合の執行吏は、その本来の職務である仮処分命令の執行行為として目的不動産を保管するものではなく、執行吏規則第三条の規定に従い、裁判所の命令によつて本来の職務以外の事務としてその保管を行うものであるから、その法律上の地位は不動産強制管理の場合の管理人の地位に当るのであり、仮処分命令の趣旨に従い債務者に目的不動産の使用を許すべき制約を受けているものであるし、また、仮処分命令に定められている現状変更に当るかどうかの判断はそうよういなものではないから、右のような性格を有する執行吏のみにその判断を委ねることは適当ではない。従つて、上記趣旨の仮処分命令について、執行吏は自らの判断で実力をもつて目的不動産の債務者の占有を奪うことができる権限を当然に有するとか、また右仮処分命令自体が当然に執行吏に右のような権限を与えているとか解することはできない。債務者が上記不作為義務に違反し目的不動産の同一性を害するように現状を変更し、または変更するおそれがあり実体上の請求権保全の必要上、債務者に対し目的不動産からの退去又はその明渡のいわゆる断行的仮処分を求める必要のあるときは、債権者は民法第四一四条第三項、民事訴訟法第七三三条により将来のための適当な処分として、裁判所の授権決定を得たうえ、右退去ないし明渡を強制すべきものと解するのを相当とする。

してみると、裁判所の授権決定を得る手続を経ることもなく執行吏が点検に際して、実力で抗告人の本件建物に対する占有を排除してその使用を禁止し執行吏自らの占有に移した執行はいずれにしても違法であるから、右執行処分は取消さなければならないものというべきである。

(村松 伊藤 杉山)

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